最高ランクのホテルに与えられる称号「パラス(palace)」。宮殿を意味するパラスについてレポートします。
こんにちは、パリナビです。世界中の人たちが訪れる国、フランス。パリの観光客の半分以上は、国外からやってきます。旅行客にとって、大切なポイントのひとつがホテル選び。とくに外国人旅行客は、高級ランクのホテルを利用することが多いのだそう。そのため、このランクの宿泊施設の向上とレベルの明確化が求められていました。フランスのホテル格付け基準は、商業・手工業・中小企業・観光・サービス・消費担当大臣が発布する法令により定められています。
ジョルジュ・サンクを彩るフラワー・アート
初めてホテルの格付け基準を法令で定めたのは1986年。それ以来フランスのホテル格付けの最高ランクは「4つ星デラックス」でした。しかし、その他の観光先進国では最高ランクは「5つ星」。そのため、海外顧客の獲得において大きなハンディが存在していました。よって、高級ランクの宿泊施設のさらなる充実をはかり、海外マーケットの顧客に広くアピールすることを目指すため、2009年に「5つ星」を最高ランクとする新しい格付け基準が定められました。
5つ星のカテゴリーの導入と「パラス」ランクの創設
ル・ムーリスのスイートルーム「executive suite」©Meurice
この新カテゴリーは、とりわけ外国の宿泊客がホテルを評価・比較するための便利な目安となりました。5つ星はフランス以外では普通に使われていた規準なので、世界中の同レベルのホテルを簡単に知ることができるようになりました。そしてこの5つ星にランクに加え「プレミアムな称号を与えたい」という大臣の意向から、2010年11月に「パラス」ランクの創設が発表されることとなったのです。
2011年に誕生したル・ブリストルのスイート・ルーム「Lune de miel」©Le Bristol
これまでパリにある7 軒のホテルが「パラス」とされていましたが、これはいわば暗黙の了解によるもの。宿泊客から認められているという理由からでした。この格付けには、ホテルの歴史や立地も考慮されていました。パラスとされていたホテルは、ル・ブリストル(Le Bristol)、ル・ムーリス( le Meurice)、ル・クリヨン(Le Crillon)、ル・プラザ・アテネ(Le PlazaAthénée)、ル・フーケッツ・バリエール(Le Fouquet’s Barrière)、ル・リッツ(le Ritz)、ル・ジョルジュ・サンク(Le George V)です。
ホテル格付け最高峰「パラス」の誕生
2011年5月5日、「パラス認定審査委員会」のドミニク・フェルナンデス委員長により、初の「パラス」ランクに認定された8軒のホテルが発表されました。格付けの有効期間は5年間です。「パラス」に認定されるにはまず「5つ星」ホテルであることが前提です。そして設備、サービスなどなんと、234項目にも及ぶ客観的基準についてATOUT FRANCE(フランス観光開発機構)による1次審査を経て、その後各界10人の有識者からなる審査員が2次審査を行い最終決定が下されます。 まずその234項目もある基準のうち、5つ星では任意だった項目で「パラス」では必須条件となっている主なものを見てみましょう。
ル・ブリストル内にある3つ星レストラン「エピキュール(Epicure)」
プラザ・アテネの部屋
■設備関連
・ロビー、サロンなど共用スペースの冷房
・スパ、フィットネス、美容サロン
・ビジネスコーナー、15人以上収容の会議室
■サービス関連
・1年365日、1日24時間メールまたは口頭で予約が可能
・コンシエルジュ、両替サービス
・インターネットにアクセス可能なパソコンを宿泊客用に設置
・スタッフが英語を含む外国語3カ国語を話すこと
次に第二次審査の評価項目をあげてみましょう。
立地のよさ、建築としての卓越性、美しさ・豪華さ・快適さ、伝承や歴史、レストラン・バーの秀逸性、社会や環境に配慮した取り組み、など。これは一部分にすぎません。ちなみに第二次審査にあたる委員は、作家、ジャーナリスト、大企業の社長、テレビキャスター、映画プロデューサーなどの10人で、任期は3年です。
9つの「パラス」ホテル
5月に発表された8軒のホテルは、パリにある「ル・ブリストル」「ル・ムーリス」「ル・パーク・ハイアット・ヴァンドーム」「プラザ・アテネ」。地方は「オテル・デュ・パレ (ビアリッツ)」「レ・ゼレル (クルシュヴェル)」「ル・シュヴァル・ブラン (クルシュヴェル)」「ル・グラン・トテル・デュ・キャップ・フェラ (サン・ジャン・キャップ・フェラ)」です。そして9月に観光担当大臣フレデリック・ルフェーヴル氏は「フォーシーズンズ ジョルジュサンク パリ」に「パラス」の称号を授与。フランスのパラスホテルは9つとなりました。では、「パラス」の称号を与えられたパリのホテルをご紹介します。
ル・パーク・ハイアット・ヴァンドーム(Le Park Hyatt Paris-Vendôme)
暖炉のある空間は、有名デザイナーも打ちあわせに利用するそう
ル・パーク・ハイアット・ヴァンドームは、ホテルの中で最初の「パリの現代パラス」です。高級宝石店が並ぶヴァンドーム広場から歩いてすぐ、ラ・ペ通り(rue de la Paix)に2002年8月に開業。1994年にオープンした日本のパーク・ハイアット東京よりも後に誕生した、21世紀生まれのホテルなのです。客室は158室ある中で、スイートルームは40室。ホテル内にあるレストラン、ピュール(Pur’)はミシュラン1つ星を獲得しています。シェフは高級ホテル「クリヨン」、星付きレストラン「タイユヴァン」などで経験を重ねたジャン-フランソワ・ロケット氏。レストランからは調理場を見ることができます。
コンテポラリー:contemporain
細長いシルエットの彫刻はホテルの至るところで見つけることができます
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隠れ家的雰囲気のバー
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「今と昔」が共存する柱や床、壁などのホテルの内装は飾りすぎず、シンプル。ホテルに入るとすぐ目の前に、手足の細い歩く人の銅像が立っています。バランスと軽さを表現したというこの種類の彫刻は。ホテル内に全部で約5000個!小さなものから大きなものまで、あらゆるところにこの彫刻があるので、チェックするのも面白いかもしれません。暖炉のあるサロンでは豪華な田舎の別荘にいるような雰囲気。有名デザイナーも打ち合わせに頻繁に利用するそうです。またホテル内に飾られている絵画は200点ほどあり、まるで美術館にいるようです。その作品に合わせて、オーダーメイドで作ったテーブルや椅子、絨毯はフランス製にこだわらずタイなどアジアの国の素材を使っているそう。また、アニメティの香水もオーダーメイド。調香師のブレーズ・モータン氏がこのホテルのために特別に作ったそう。「コンテポラリー」と表現される、21世紀生まれのホテルです。
ル・プラザ・アテネ(Le Plaza-Athénée)
1913年、シャンゼリゼ通り、セーヌ河からもほど近いモンテーニュ通りに開業。1947年にクリスチャン・ディオールのブティックがオープンして、モンテーニュ通りはオートクチュールの店が立ち並ぶ通りとなり、プラザ・アテネもファッションとアートの殿堂となります。モナコ王妃のグレース・ケリーも顧客だっだそうです。客室は191室、そのうちスイートルームは45室。2008年には、クラシック調のスイートルームが誕生。その広さは300㎡以上もあるそうです。オスマン調の建築形式の内装からは、フランスの歴史を感じることができます。
明日のパラス:Le palace de demain
約100年の歴史をもちながら常に改革を行っているプラザ・アテネ。フランスの伝統を守りながら、常に明日に向かって進んでいるホテルです。
ル・ムーリス(Le Meurice)
チュイルリー公園の目の前にあるル・ムーリス©Le meurice
チュイルリー公園の目の前、ルーブル美術館にほど近いホテル・ル・ムーリス。1835年に開業し、パリの「パラス」ホテルの中では最も歴史があります。18世紀に北フランスのリールで英国人向けの宿を経営していたオーギュスタン・ムーリスがパリのサントノレ通りに開いた外国人向けのホテルが前身です。1835年に現在の場所に移転し、その歴史が始まります。20世紀初頭には経営者が変わり、1931年にフランスに亡命したスペイン国王アルフォンソ13世がル・ムーリスをパリでの拠点とし、また英国皇太子やヨーロッパ各国の王族がこの「王たちのホテル」に好んで宿泊したそうです。
サルヴァトール・ダリの「家」
1835年のオープン以来海外の王族、貴族、芸術家、俳優など、世界で活躍する人々を顧客に迎えています。1930年代にはココ・シャネルがパーティを開催するときに利用したそう。画家のサルヴァトール・ダリは1950年代から30年近くホテルに住んでいたそう。時には「チュイルリー公園に飛んでいる虫を捕まえてきてほしい」といい、ムーリスのスタッフは虫を捕りに公園に行きかごに入れて渡した、というエピソードも残っています。
レストラン・ダリ©Le meurice
ダリの影響は大きく、2007年の改装によって新しくオープンしたレストランはその名も「ル・ダリ(Le Dali)」。天井の壁画はダリの作品をイメージして描かれ、まるでダリの作品の中にいるような雰囲気です。改装を手がけたのは、フィリップ・スタルク氏と娘のアラ氏です。 エレガントなルイ16世調の建築様式の客室は115室、スイートルームは23室、ジュニアスイートは22室。7階にあるスイートルームの「ラ・ベル・エトワール(La belle Etoile)」の広さは275㎡、プライベートのテラスからはパリの景色が360度見渡せるそうです。
3つ星レストラン「ル・ムーリス」©Le meurice
またヤニック・アレノ氏が腕をふるうメインレストラン「ル・ムーリス(Le Meurice)は2007年以来、ミシュランの3つ星を取り続けています。パティシエはフランスの食の専門雑誌、ル・シェフから2010年のパティシエに選ばれたカミーユ・ルセック氏。彼の創りだすデザートも人々を魅了しています。
魅了し続けるホテル:Glamour
「魅了する」という意味のグラムール(Glamour)という言葉でも表現されるル・ムーリス。開業当初から世界中の人々から愛され、これからも人々を魅了し続けるホテルです。
スイートルーム©Le meurice
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スイートルームのサロン。とにかく広いです©Le meurice
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ル・ブリストル(Le Bristol)
自然光がさしこむ、気持ちのいい空間
シャンゼリゼ大通り、大統領官邸のエリゼ宮にほど近く、フォーブル・サントノレ通りに位置するル・ブリストル。1925年に開業したホテルの起源は、フランスの文化がヴェルサイユからパリへ移った18世紀初頭に始まります。沼地だったフォーブル地区に豪華な邸宅が立ち並ぶようになり、その中のひとつがル・ブリストルなのです。ホテルの名前は18世紀の旅行家で、ホテルの快適さや質にこだわりをもっていたことで有名なブリストル伯爵に由来しています。開業以来、諸外国の王室、政治家をはじめ各界の著名人が利用し、そういった人々の隠れ家ホテルになっているそうです。常に進化しているブリストルは2009年に新たに26の客室と、カジュアルレストラン「114フォーブル」をオープン。その後、2009年からは1億ユーロ以上をかけて改革のプロジェクトを行っていて、今のその真っ最中です。現在の客室は188室、そのうちスイートルームは88室を数えます。
2つのスイートルームの誕生
2011年9月、進行中の改革プロジェクトのひとつであるスイートルームが2つ誕生しました。320㎡の広さをもつ「La suite Imperiale」はホテルで一番の大きさ。8階にある「Lune de Miel」からはエッフェル塔、アンヴァリッドやグラン・パレも一望できるそう。内装はいずれも18世紀の建築様式で、パリの景色と歴史を同時に楽しむことができます。
2011年に誕生したスイートルーム。
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パリの景色を一望できる絶好の場所です。
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新しくなった三ツ星レストラン。その名も「エピキュール」
ルイ16世様式の天井と、自然光の差し込む気持ちのよい明るさ、そして何と本物の暖炉があります。これは19世紀のもので、大理石でつくられているそう。カーテンから窓、床といった内装、テーブルアートもすべてオーダーメイドです。リモージュ焼きのレイノーのお皿、バカラのグラス、クリストフルのナイフやフォークたち。ふと椅子を見ると、模様はかわいらしいチェック。三ツ星レストランということで、緊張した雰囲気かと思っていましたが、豪華さとともに温かみがある、リラックスできる空間です。ここで食事をしたらさぞかし素敵な思い出となるに違いありません。
スパの充実:SPA Le Bristol by prairie
美容面も充実しているブリストル。2011年10月に誕生したスパは、質の高さで世界的に知られるスイス生まれの化粧品ラ・プレリー(La prairie)によるものです。それぞれの部屋にはテラスがあり、マッサージを受けたあとにここでゆっくりお茶を楽しむことができます。1人用、2人用の部屋があり、そこはまさにプライベート空間です。
スパでリラックス
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ホテルのバスローブは豪華にみえます
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2011年はブリストルの年:Lannee de Bristol
ホテル界の中で2011年は「ブリストルの年(Lannee de Bristol)」と言われています。改革が着々と実現されると同時に、2011年は数々の賞を受賞しています。まずは5月の「パラス」の称号の認定。それからパティシエのローラン・ジャナン氏は「今年のパティシエ」賞を受賞。フランス中のシェフ、パティシエ、ソムリエ、約6000人の投票によって選ばれる、パティシエにとっては本当に名誉ある賞です。レストランフォーブル114は「meilleure experience culinaire」、ホテル全体では「Luxury City Hotel」「Meilleur Hotel dEurope」といった、優秀なホテルに与えられる国外からの賞を受賞しています。
フランスの豪華さ:Luxe a la francaise
開業当時から貴族の手により洗練を重ねてきたブリストルは、フランスの豪華さを表しているホテルです。その中には家族的な温かみも含まれ、それを象徴しているのがマスコット的存在の猫「ファ・ラオン(Fa-raon)」です。自由気ままにホテル内を歩く、その愛らしい姿はお客やホテルのスタッフ達をなごませてくれます。改革を続けるブリストルは、常に進化しています。
フォーシーズンズ・ホテル・ジョルジュサンク(Four Seasons Hotel George V Paris)
2011年9月、「パラス」に認定された9番目のホテル。前身は1928年にオープンした、アールデコ様式の歴史あるホテル「ジョルジュ・サンク」で、歴史的建造物に指定されています。3年間の全面改装を経て、1999年にリニューアルオープンしたのが「フォーシーズンズ・ホテル・ジョルジュサンク(Four Seasons Hotel George V Paris)」。世界規模で展開している高級ホテルリゾートグループにより新しく生まれ変わったホテルです。
シャンゼリゼ大通り、セーヌ河も歩いてすぐ。
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まるで美術館の中にいるみたいです。
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ルイヴィトンやエルメスなどの高級ブランド店が並ぶジョルジュ・サンク通りにあり、シャンゼリゼ大通り、セーヌ河も歩いてすぐ近く。客室は245室、そのうちスイートルームは59室。30室にテラスがあり、パリの景色を楽しむことができます。
ホテルを鮮やかに彩っている花のデコレーションは、フラワーアーティストのジェフ・リーサム氏と7人のスタッフによるものです。その花の美しさと、リーサム氏の才能は世界中に知られています。週ごとにデコレーションのテーマを変え、手入れは毎日、もしくは時間ごとに行っています。毎週オランダから約9000本の花が届き、150本のブーケがロビー、レストラン、部屋を飾っています。訪れたときは、ちょうどリーサム氏が花の手入れをしているところ。広報の女性にも「ハロー。元気?」と気さくにビズをするフレンドリーさ。筋肉ムキムキの腕から、こんなに美しい花のデコレーションが生まれるなんて驚きです。動きのある花のアートは、踊るようにデコレーションをする姿に秘密があるのかもしれません。
シェフのエリック・ブリファード氏は日本でのシェフの経験もある親日家。話をさせてもらいましたが、非常に穏やかな方でまるで仏様のような印象。そんなシェフが腕をふるうレストランはミシュランの2つ星を獲得しています。テーブルアートはオーダーメイド。お皿に描かれているのは、レストラン内にあるマークと同じ模様です。また2011年からシェフ・パティシエに就任したルシアン・ゴティエ氏のデザートも評判が高く、サロン・ド・テもおすすめです。
パリのエスプリを届ける:esprit parisien
ホテルに入った瞬間から、アートデコ様式の内装にフランスの歴史の年月を感じる内装。同時に魅了される、見事なフラワーアートで「現代性」も与えています。伝統を守りながらも、花などのちょっとしたところで「今」というアクセントも加えています。パリのエスプリを届けてくれる、それがジョルジュ・サンクです。
注目が集まるパリのホテル界
パリのホテル界にはアジア勢力も進出しています。2010年はシャングリ・ラ(Shangri-La)、2011年はマンダリン・オリエンタル(Mandarin Oriental)、2012年にはペニンシュラ(Peninsula)のオープンも控えています。フランスの伝統を守りながら、独自の改革を行い、日々進化するホテル。パリのホテル界の動きに、これからも目がはなせません。以上、パリナビでした。
上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。
記事登録日:2012-02-02