ル-ブル美術館をじっくり鑑賞しようとしても、人波にのまれてしまい、なかなか思うようにはいきません。特に週末は、モナリザやミロのビーナスなど人気展示物付近では、人の流れに反して移動することなど不可能なありさまです。そもそも入館してからよりもむしろ、入館するために並ぶ時間が半端なく長く必要です。チケット売り場に続くピラミッド入口には、広場を覆い尽くすほどの長蛇の列ができ、ひたすら我慢して待つ忍耐力も、必要となります。
しかし、そんな問題もミュージアムチケットがあれば、すぐに解決です。チケット購入の行列に並ぶことなく、有効期限内なら無制限に様々な施設に入館できるので、お値段以上の価値があります。中央出入口(ピラミッド入口)は大部分の入館者が集中するので、並ぶ気力が失せるほどの混み具合になります。写真3は閉館間近のものなので人はまばらですが、週末の午後は、この広場が入場待ちの人で埋まります。
実はルーブル美術館には入口が4カ所以上あるのですが、入館者の大部分がピラミッド入口(写真3)を目指すため、人が集中し、待ち時間が長くなります。そこでおすすめなのが、99入口とカルーゼル凱旋門前画廊入口(写真1が凱旋門 近くに地下へ降りていく階段が2カ所あります)です。(図2参照……出典:ルーブル美術館オフィシャル館内案内パンフ)どちらもほとんど人がおらず、あっけないくらい簡単に入館ができます。どちらの入口から入っても、逆ピラミッドが見えてきますので、結果としてピラミッド入口から入った場合と同じ場所に、しかも圧倒的に短い時間で到達できます。
セーヌ川沿いの入口も、人が少ないのですが、館内案内が、中央入口から入場することを前提になされているため、迷うこと必至ですから、あまりおすすめできません。実は人ごみを避けたつもりで、最初にここから入館し、迷いに迷ったのです。
仏の美術館では、入口で手荷物のX線検査があります。私はバッグにサンドイッチとジュースを入れていたため、「飲み物食べ物は中に持って入れない、クロークに預けてくれ」と言われてしまいました。スムーズに入館するためには、手荷物に液体物を入れないことに務めましょう。
美術館に入ると、まずピラミッドの真下に円形カウンターのインフォメーションがあります。そこで館内マップをゲットしてください。日本語版は逆ピラミッド側から見て、一番右端に置いてありました。多くの言語版が用意されているので、探すだけで結構大変です。私は左端から探していったので、己の運の悪さを呪いました。
さてそれから4つのエスカレータが見えてきます。
私が行った日は日曜日で、祭りの夜か、ラッシュ時の新宿駅かと言うぐらいの混雑ぶりでした。人が多過ぎて、何処へどう行けば良いのかわからなくなります。だから人が一番多く進んでいる方向へ行ってみようと考えるのはごく自然な流れです。(少なくとも私はそう考えました)「皆モナリザを見に行くに違いない。きっと人が一番多く流れている方へ行けばモナリザにたどり着けるに違いない」多くの人はそう考えてしまうのではないでしょうか?まあそいういうことにしておいてください。セーヌ川入口から館内へ入り、訳も分からぬまま1時間以上も迷いながら進んだ私は、ようやくピラミッド下にたどり着き、人が一番多く流れている真ん中のエスカレータに乗りました。結果、私は美術館の出口へ向かってしまっていたのです。エスカレータから降りて、美術館から外へ出てしまったことに気がつくと、茫然自失で、しばらく立ち直れませんでした。さんざん迷いながら一時間以上も彷徨い続け、振り出しに戻ってしまったのです。だからセーヌ川入り口はおすすめできません。
さて話を元に戻しましょう。インフォメーションを過ぎ、館内マップをゲットしたら、右方向Deonon(ドゥノン)翼方向のエスカレータに乗ってください。チケットのチェックがあり、必要ならば音声案内のヘッドセットをレンタルもできます。館内に「モナリザはこっちですよー」とばかりにしつこいほどに、モナリザが微笑んでいる大きな案内板が設置されているので、その看板の示す方向に進んで行けば、フランス語が全く解せなくても、簡単にモナリザまでたどり着くことができることでしょう。大階段の上部にサモトラケのニケ像を発見した時には、「ルーブルに来たんだ」という実感で気持ちが高ぶってきます。
ニケ像を右へ曲がると、いよいよイタリア絵画の部屋です。目当てのモナリザまでもう少しです。そのまましばらく進んでいくと、異常なまでに人が集まっている部屋が右側にあります。それでモナリザの展示場所はすぐに判ります。しかし、黄色っぽい防弾ガラスに囲まれ、5mの距離を空けて木製の柵が設置され、またご丁寧にそこから数m離れた場所に簡易柵で隔てられたモナリザは、常に大勢の人に取り囲まれ、とてもじっくり鑑賞できる状態ではありません。写真すらうまく撮れないと思います。何となくモナリザらしきものがあるなあ程度にしか見えません。シンガポールのマーライオンやコペンハーゲンの人魚姫像もびっくり。一緒に世界がっかりの仲間入りをさせたいぐらいです。まあ、帰国してゆっくり画集でも見ながら、自分を慰めて下さい。それよりも、わざわざルーブルまで来て目の前で生のモナリザを見るという、一見時間と金の無駄だと思える行為そのものに、価値を見出すしかありません。私も実際にそれを目にするまでは、ダビンチがどのようなタッチでこの名画を描いているのかとか、背景の細かい描写を確認したいと思っていたのですが、思い違いもいいところでした。
しかし、あまりのがっかり具合に納得できない私は、朝一番もしくは水曜、金曜の22時まで開館している時には、誰にも邪魔されずにゆっくりと見ることができると、どこかのサイトに書いてあった事を思い出し、この日は、自分が見たい展示物のが大まかな位置関係の把握に閉館までの時間を費やし、次の日の朝一番乗りを目指すことにしました。
次の日、朝8時にホテルを出て、月曜日の通勤ラッシュのメトロでもみくちゃになり、開館30分前にルーブルに到着しました。昨夜はじっくりと寝て、朝食もしっかりとったので、気力体力共に十分です。もちろん昨日の失敗に懲りて、99番入口から入場しました。すると入口には既に数十人が並んで居るではないですか。しかもざっと見て9割方が日本人で、日本語が飛び交っています。日本人恐るべしです。
開館と同時に他の人がチケット売り場に急ぐのを横目に見て、迷うことなく右側のドゥノン翼エスカレータに飛び乗ります。こんな時ミュージアムチケットの有り難さを痛感します。してやったりと、思わず自分の顔がニヤケるのを感じます。そう、例えていうならば、まだ珍しかったETCを使って、入場待ちの車列をやり過ごした時の、あの気持ちです。サモトラケのニケ像の階段を駆け上がり、モナリザの前にたどり着くと、幸運なことに一番乗りでした。その後5分間ほどモナリザを独占でき、至福の時間を過ごすことができました。おかげでがっかり感は少し薄れ、達成感で自分を納得させることができました。
もちろんルーブルはモナリザだけではありません。ミロのビーナス(写真2)、メソポタミアのサルゴンⅡ世の宮殿、ハムラビ法典、アウグスツスの像、ダヴィッドのナポレオン1世の戴冠式、ドラクロアの民衆を導く自由の女神など、かつて世界史の教科書で目にしたものが、現実に目の前に次から次へと現れる興奮は、言葉では決して表すことができぬほど素晴らしいものです。裏返せば、我々はフランスの侵略と略奪の歴史を見ていることになるのですが……結局2日半歩き回りましたが、全館制覇はできませんでした。ツアーの団体客などは、モナリザ、ミロのビーナスなどの有名どころを素早く見て、さっと次の目的地を目指して去って行きますが、ナントモッタイナイ。これだけの人類の至宝を目の前にして通り過ぎて行くなんて。完成までに数年、いや一生をかけて作者が魂を込めて産み出した作品を横目に、ただ通過するなんて……。
そうそう、一番大事なことを言うのを忘れていました。本気になってルーブル巡りをしようとするのなら、お金よりも、若さと体力が何よりも必要ですよ。美術館内を本気でじっくりと巡ると、とんでもない距離を歩くことになりますから。
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