パリの注目スイーツ店2012 ~ラ・パティスリー・バイ・シリル・リニャック

スイーツ好きを魅了し続けるパリ。人気シェフが新たにオープンしたパティスリー&ブーランジュリーをご紹介します。

こんにちは、パリナビです。スイーツ好きを魅了し続けるパリ。愛好家だけではなく、世界中のパティシエたちもフランス菓子を学ぶために足を運ぶ街です。修行を積み、才能あるシェフたちがオープンさせたお店はお菓子、そして内装にもそれぞれのアイディアとコンセプトがあります。数年前から、パリのトップシェフたちの多くが「クラシック菓子をアレンジ」して、自分たちのお菓子作りに取り組んでいます。重くて甘いと考えられがちなフランス菓子を、現代の嗜好に合わせて、甘さを控えめにして軽く繊細に仕上げたり。自分のアイディアや、これまでの経験で習得したテクニックを使って食感を変えたり、見た目を新しくするなど、定番の中に個性が光ります。ピエール・エルメやラデュレも、季節ごとに新たなお菓子を提案し続けているので、前からあるお店、新たにオープンしたお店からも目が離せません。どのお店も注目なのですが、今回はその中のひとつ「ラ・パティスリー・バイ・シリル・リニャック(La Pâtisserie by Cyril Lignac)」をご紹介します。

お茶の間の人気スターシェフ、シリル・リニャック

テレビや雑誌に頻繁に登場しているスターシェフのひとり、シリル・リニャックさん。一般の人たちの食への興味を高め、現在の人気をつくった最初のきっかけとなった人、とも言われています。自身が腕をふるうレストラン「ル・キャンジエーム(Le Quinzième)」は2012年の3月に発表されたミシュラン・ガイドで1つ星を獲得。マレ地区に料理教室「キュイジーヌ・アティチュード(Cuisine Attitude)」、11区とサンジェルマン・デプレ地区にビストロ「ル・シャルドゥヌー(Le Chardenoux)」、そして2011年11月に「ラ・パティスリー・バイ・シリル・リニャック(La Pâtisserie by Cyril Lignac)」をオープンさせました。場所は11区にあるビストロの目の前。このパティスリーの地下ではお菓子の他に、レストランとビストロで提供されるパンも製造していて、お店でも購入することができます。

素材の質と新鮮さ

パティスリーをオープンするにあたり、シェフパティシエに迎えられたのはブノワ・クヴラン(Benoit Couvrand)さん。フォションで10年間務め、注目の若手シェフのひとりでもあります。店内には「ビストロの伝統的なデザート」をモダンに仕上げたケーキ、クロワッサンなどのシンプルなヴィエノワズリー、普段使いのバゲットや種類豊富なパンがずらりと並びます。素材の質は、ものづくりに置いて最も大切な部分のひとつ。バターは質の高さで知られるノルマンディー地方の都市、ルーアンの「ロール・デ・プレ」、粉は小麦の名産地であるイル=ド=フランス地方のボースで収穫されるヴィロン社製のものを使用。フルーツは旬であること、新鮮さにこだわります。例えば、季節のケーキ「マラガ(malaga)」に使うスペイン産の苺は飛行機でやってきます。月曜日の夜に注文して、収穫したての苺が火曜の夜にお店に到着。それを週3回注文するのだそう。素材の扱いは、高級ホテル並みの徹底ぶりです。
シェフ・パティシエはフォションで10年間務めたブノワ・クブランさん。まだ32歳。若い!

シェフ・パティシエはフォションで10年間務めたブノワ・クブランさん。まだ32歳。若い!

良質な素材でつくられるパン。お客さんが足しげく通います。

良質な素材でつくられるパン。お客さんが足しげく通います。

主食のパンと一緒にデザートも購入。

主食のパンと一緒にデザートも購入。

小腹がすいたらシュケットを。

小腹がすいたらシュケットを。

オリジナルのアイディアが光る

ケーキの特徴のひとつがそのオリジナルな形。例えば、パリ・ブレストは団子のよう。丸いシューが3つに並んでいます。シュー生地の表面には極薄いクラッカンを敷いて、さくさくっと軽い食感を加えます。アーモンドとヘーゼルナッツのプラリネクリームは実に風味が豊か。さらに、3つのシューにまたがるプラリネ・アンシエンヌのバーが食感と味わいにインパクトを与えています。このプラリネの圧倒的なおいしさの秘密。それは、創造性が豊かで、食通の間でも評判の高いショコラティエ、パトリック・ロジェさんのプラリネを使用しているのです。リニャックさんとロジェさんは友人でもあり、レストランで提供されるショコラもロジェさんのもの。ロジェさんのショコラがレストランで味わえるのはここだけです。
3つの小さいシューを横に並べたパリ・ブレスト。

3つの小さいシューを横に並べたパリ・ブレスト。

よくよく見ると、プラリネのバー!

よくよく見ると、プラリネのバー!

タルト・オ・シトロンなどのタルト類ははめずらしい四角形。なぜならクヴランさんは直線好き。正面からタルトを見ると、きれいに真っ直ぐ並んでいます。レモンクリームは実になめらかで、とろりとした口当たり。これには、バターを加えるときにちょっとした工夫があります。バターはいったん溶けると、クリームが冷えて固まったときに口溶けが悪くなります。そこでレモンを加えて加熱した卵の温度を85℃から50℃に下げ、溶けてしまわないように冷たいバターを加えます。こうして、滑らかなクリームが生まれます。それをシュクレ生地の中に、9つの山に絞り、その上にメレンゲとホワイトチョコレートをのせます。そしてその間には「わっ!酸っぱい!」と思わず叫んでしまいそうな、酸味を凝縮させたレモンのコンポートを置いています。この酸っぱさは「わざとなんですよ」と、にやりと笑うクヴランさん。ライムを加えて爽やかな風味に仕上げたレモンクリームは、酸味が控えめ。コンポートと合わせるとちょうどよい酸味となるのです。 

マントン産のレモンを使用したエクレアは季節限定のお楽しみ。シュー生地の中には、レモンクリームともうひとつ。とろりとしていて、皮の食感もあり、「はっ」とするような酸味の正体はレモンのコンポートです。アイディアはタルト・オ・シトロンと同じ。甘いグラサージュが合わさるとぴったりの味わいとなります。
とろりとしたクリームにうっとり。ライムを加えて爽やかな風味。

とろりとしたクリームにうっとり。ライムを加えて爽やかな風味。

マントン産のレモンのエクレアは2層のクリーム。季節限定のお楽しみ。

マントン産のレモンのエクレアは2層のクリーム。季節限定のお楽しみ。

バニラの香りを存分に生かす

創作ケーキの「エキノクス」は、春分、秋分の日に、昼と夜の長さがほぼ同じになる「昼夜平分時」を意味する言葉。その夜のイメージから考えた色は「灰色」。ケーキにしてはめずらしい色です。バニラのムースに、バニラ風味のキャラメルクリーム、スペキュロスのビスキュイ。バニラ好きには嬉しいケーキです。

ミルフィーユブルボン産バニラ風味のクリームは、クレーム・パティシエールに泡立てた生クリームを加えて軽い仕上がりに。アンヴェンルセのフィユタージュは、ほんのり塩をプラスしています。ミルフィーユのおいしさの決め手はフィユタージュ。「常にさくさくで新鮮なものを」と1日のうち、2回に分けて作っています。 
夜の神秘的なイメージを思わせる「エキノクス」。ケーキにしてはめずらしい色。

夜の神秘的なイメージを思わせる「エキノクス」。ケーキにしてはめずらしい色。

横に倒したミルフィーユの上に、クリームをのせる。これもオリジナル。

横に倒したミルフィーユの上に、クリームをのせる。これもオリジナル。

フランは「パリで一番」と、パティシエ世界チャンピオンのクリストフ・ミシャラク氏のお墨付き。おいしさの秘密は、生クリームにブルボン産バニラを加えて24時間置き、バニラの風味をしっかりと浸透させること。そして焼き加減が大切なポイントです。卵を加えないアパレイユは、ぷるんぷるん。弾力があるのに、すーっとナイフが入るなめらかさ。甘さがぐっと控えめで、豊かなバニラの香り。さくっと軽いパイ生地にはほんのり塩味がきいていて、日常のおやつが格段にレベルアップしています。 

ババ・オ・ラムは爽やかな柑橘、バニラの香りが広がる一品。レモン、オレンジ、バニラを加えたラム酒にしっかりとつけたババ生地の中央にはバニラ風味の生クリーム。口にするとじゅわっ、とラム酒があふれ出てきます。 
ぷるんぷるん、と震えるアパレイユ。トップパティシエのお墨付き。

ぷるんぷるん、と震えるアパレイユ。トップパティシエのお墨付き。

柑橘の香りがさわやかなババ・オ・ラム。

柑橘の香りがさわやかなババ・オ・ラム。

リッチなヴィエノワズリーと種類豊富なパン

随分前に日本で流行になったクイニーアマン。現在、パリっこのおやつとして定着するかも?と言われています。ここでもクイニーアマンは大人気。通常は2回折る生地を、2回はノーマル、2回は砂糖を加えて、合計4回折ることで層のボリュームをアップしています。加えるバターと砂糖の量は同じ1キロ。「外はキャラメリゼされて、さくさくの食感、中はやわらかい状態が理想」。16時のおやつの時間前に完売してしまうことも多いそうです。 
パリっこの定番おやつになるか?クイニーアマン。

パリっこの定番おやつになるか?クイニーアマン。

通常2回折る生地を4回に、バターと砂糖は同じ量!

通常2回折る生地を4回に、バターと砂糖は同じ量!

パンは三ツ星レストラン「ピエール・ガニエール」で責任者を務めていた職人が腕をふるいます。シンプルなバゲット、カンパーニュの他に、ナッツや乾燥フルーツ、シリアルを加えたものまで種類が豊富。ジューシーなオリーブ、肉厚のドライトマト、バルメザンチーズの香ばしさ、ローズマリーが香るパンは、中がしっとり。さすがのおいしさです。パンはフランス人の主食で、食卓には欠かせないもの。お店の人気の秘訣は、ケーキだけではなく、パンがおいしいことにもありそうです。 
中には肉厚でジューシーなオリーブとドライトマト。何と贅沢なパン。

中には肉厚でジューシーなオリーブとドライトマト。何と贅沢なパン。

飛ぶように売れるクロワッサンとパン・オ・ショコラ。

飛ぶように売れるクロワッサンとパン・オ・ショコラ。

サンドイッチやスープなどの軽食も揃う。お昼はお客さんでにぎわいます。

サンドイッチやスープなどの軽食も揃う。お昼はお客さんでにぎわいます。

アントルメの巨大ババ・オ・ラム。

アントルメの巨大ババ・オ・ラム。

どのパティスリーからも目がはなせない2012年

良質の素材に職人の技術とアイディアを加えてつくるクラシックなフランス菓子。フランスで、これからどんなケーキが登場するのか楽しみです。以上、パリナビでした。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2012-05-16

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